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2026年6月13日 (土)

HFV5用100W級強制バランの設計と製作【18~28MHz専用】

HFV5の18MHz帯から28MHz帯で使用するため、50Ω : 50Ωの
強制バラン、いわゆる伝送線路型の1:1電圧バランを製作しました。

20260607_000120260607_0002

 

 


■1. 製作仕様


使用周波数  :18~28MHz帯 専用
目標耐電力  :連続 100W
目標VSWR  :1.1以下

フェライトコア:トロイダルコア FT-114-#61 2枚重ね
巻き線材料  :φ1.2mm 1種 ポリエステル被覆銅線(1PEW)
巻き線構成  :トリファイラ(平行3線密着)
巻き回数   :5回

20260607_0003

 

 


■2. VSWR特性 (バラン単体) 


18~30MHzの範囲で VSWR < 1.1 を確認しました。

20260607_0004

 

 


■3. バラン自作の経緯


先日、HFV5に付属するバラン BU55 の内部構造を確認したところ、
FT8やRTTYなどのデジタル通信モードを100Wで運用するにあたって、
バランの耐電力や部品の発熱など、個人的な懸念がありました。
そこで今回、バランを自作することにしました。
なお、BU55の構成を確認した記事は以下です。
HFV5のバランの中身を見てみました

私の場合、HFV5は18MHz帯、21MHz帯、24MHz帯、28MHz帯でのみ使用しています。
そのため、これらの周波数帯に特化した強制バランとして設計しました。

 

 


■4. バランの製作と評価


今回のバランは、コアの選定から損失計算まで一通り検討したうえで製作しています。
設計に関する話は少々長くなるため、まずは製作内容を紹介し、その後で設計の詳細について説明します。

4-1. 準備したもの

・アミドン FT-114-#61:2個
・φ1.2mm 1種ポリエステル被覆銅線 (1PEW):50cm程度×3本
・M型レセプタクル パネル付け 4点止めタイプ:1個
・タカチ TW5-4-7B:1個
・ステンレス M3×20mm ナベ小ねじ:2本
・ステンレス M3×8mm ナベ小ねじ:4本
・ステンレス M3 スプリングワッシャ:6個
・ステンレス M3 平ワッシャ:6個
・ステンレス M3 ナット:6個
・ステンレス M5×30mm ナベ小ねじ:1本
・ステンレス M5 スプリングワッシャ:1個
・ステンレス M5 平ワッシャ:1個
・ステンレス M5 ナット:1個
・圧着端子 R2-4:3個
・耐熱ポリイミドテープ:1m程度

 

4-2. トリファイラ巻き線の準備

巻き線の線材として、
長さ35cmのφ1.2mm 1種ポリエステル被覆銅線(1PEW)
を3本用意しました。

まず35cmより少し長めに切り出し、
片端を万力で固定、もう片端をペンチでつかんで強く引っ張り、
巻き癖を取って直線状にしました。
その後、長さ35cmに切りそろえました。

φ1.2mmと比較的太い線材のため、直線にするには多少の力が必要でした。

直線にした3本のポリエステル被覆銅線を平行に並べ、軽く密着させます。
この状態を保持するため、耐熱ポリイミドテープ(いわゆるカプトンテープ)で固定しました。
写真では分かりにくいかもしれませんが、ポリイミドテープはハーフラップで巻いています。

20260607_0005

 

4-3. トリファイラ巻き線の特性インピーダンス測定

3本並んだポリエステル被覆銅線を、端から順に A、B、C とします(Bが中央)。
強制バランとして使用した場合、主信号が通過する経路は A-B 間 (またはC-B間) となります。
そのため、A-B 間は伝送線路として見た場合の特性インピーダンスが重要になります。

A-B間の特性インピーダンスは強制バラン完成後のVSWR特性を左右する要素の一つであるため、
あらかじめ確認しておきます。
A-B 間の片側に50Ω終端を接続し、反対側から NanoVNA を用いてVSWRを測定しました。
50Ω終端には、NanoVNA付属のLOAD抵抗をSMAコネクタ経由で接続しています。

20260607_0006

18MHzから28MHzまでのVSWR特性は、次のようになりました。

20260607_0007

18MHzでのVSWRは1.13、28MHzでは1.22となり、概ね良好な結果が得られました。

インピーダンスが50Ωよりわずかに低いことから、
A-B 間の特性インピーダンスも50Ωを少し下回っている可能性が考えられます。
これは、A-B 間の密着がやや強かったためかもしれません。
ただし、実用上は十分な特性と判断し、このまま製作を進めることにしました。

 

4-4. トロイダルコアの準備

今回のバランでは、FT-114-#61を2枚重ねで使用します。
接着剤は位置決めができる程度の「チョン付け」とし、コア同士が密着するようにしました。

20260607_0008

接着剤を厚く塗りすぎると、コア同士の間に隙間が生じ、磁気的に一体化しにくくなります。
そのため、接着剤は最小限の量としました。

 

4-5. トロイダルコアにトリファイラ線を巻く

前節で準備したトリファイラ巻き線を、
FT-114-#61を2枚重ねにしたトロイダルコアへ5回巻きました。

巻き作業では、以下の点に注意しました。
 ・3本のポリエステル被覆銅線が平行を保つようにし、ねじれを生じさせないこと
 ・漏れ磁束を極力少なくするため、できるだけ密着させて巻くこと
 ・巻き位置が偏らないよう、均等な間隔で配置すること

φ1.2mmのポリエステル被覆銅線3本を、
比較的剛性の高い耐熱ポリイミドテープでまとめているため、
密着させながら巻くにはかなり力が必要でした。

巻き終えた後、念のため A-B 間の特性インピーダンスを再度確認しました。

20260607_0009

コアに巻く前後でVSWR特性にほとんど変化は見られませんでした。
このことから、巻線作業によってトリファイラ巻き線の平行密着状態は維持されており、
特性インピーダンスもほぼ変化していないことが確認できました。

 

4-6. 強制バランとしての結線

コアに巻いたトリファイラ巻き線について、
A、B、Cそれぞれの巻き始めを a、b、c、
巻き終わりを a'、b'、c' とします。

強制バランとして動作させるため、まず以下のように接続します。
  a' と c を接続
  b と c' を接続
次に、各端子を以下のように接続します。
  a :不平衡端の信号線(M型レセプタクルの芯線)
  b と c' :不平衡側のGND(M型レセプタクルのフレーム)
  a' と c :平衡側(アンテナの一方)
  b' :平衡側(アンテナの他方)
この接続を誤ると、強制バランとして正常に動作しないため注意が必要です。

20260607_0010


5回巻きではトリファイラ巻き線に約10cmの余裕がありましたので、
結線に必要な長さを残して余分な部分を切り詰めました。
ポリエステル被覆銅線は、そのままでははんだ付けできません。
そのため、小型のヤスリなどで被覆を除去してから、はんだ付けを行いました。

結線後、一旦仮組みの状態で平衡側(アンテナ側)に50Ω終端を接続し、
不平衡側から見たVSWRを測定しました。

20260607_0011

結果は以下のとおりで、トリファイラ巻き線の密着状態がわずかに変化したためか、
18MHz~28MHzではVSWRが1.10以下となり、VSWR特性は僅かに改善する結果となりました。
想定外ではありましたが、良い方向への変化でしたので、このまま組み立てを進めることにしました。

20260607_0012

 

4-7. ケースの加工

ケースは、タカチのTW5-4-7Bを使用しました。
ケースの穴開けは、あらかじめ作成した型紙を印刷し、両面テープでケースに貼り付けて行いました。
穴位置は型紙に合わせてマーキングし、その位置に従って加工しています。

給電部の取付穴間隔は、HFV5のヘアピンスタブの間隔に合わせて30mmとしました。

20260607_0013

ケースの蓋にはφ5mmの穴を開け、内側からM5×30mmの鍋小ねじを挿入しています。
このねじはHFV5のエレメント固定板へ取り付けるためのもので、蓋の内側から接着剤で固定しました。

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4-8. ケースへの組み込み

穴加工を行ったケースへ、仮組み状態で動作確認を終えたバランを組み込みました。

給電部は圧着端子を用い、M3×20mmのネジをケースの内側から通し、
そしてケース外側からナットで固定しました。

また、M型レセプタクルはケース内側から取り付け、4本のM3×8mmのネジで固定しています。

20260607_0003

最後にM5×30mmのネジを接着した蓋を取り付けて完成です。

20260607_000120260607_0002

 

4-9. バラン単体のVSWR確認

組み立て完了後、最終確認としてバラン単体のVSWR特性を測定しました。

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結果は冒頭で示したとおりで、
18MHz帯から28MHz帯までの範囲でVSWRは1.1以下となりました。
設計時に目標としていた周波数帯全域で良好な整合が得られており、
実用上十分な性能を確認することができました。
また、ケースへ収納したことによる特性の劣化も見られず、
組み立て方法による影響はほとんどないことが確認できました。

 

4-10. バラン出力波形の確認

バランの出力波形も確認しておきました。
信号源として、アンテナアナライザ MRJ-259B を使いました。

18MHz帯
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21MHz帯
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24MHz帯
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28MHz帯
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各周波数帯で出力電圧がほぼ等しく、
かつ約180°の位相差を持っていることが確認できました。
したがって、本強制バランが平衡出力を正常に生成していることが分かります。
ただし、MRJ-259Bの出力信号が綺麗な正弦波ではないことが影響してか、
強制バランの出力波形も少々歪んでいるように見えます。

 

4-11. HFV5への取り付け

HFV5についていたBU-55を取り外し、
今回製作したバランを取り付けました。

20260607_0019 20260607_0020

バラン交換後、各周波数帯でHFV5のVSWRを測定しておきました。

18MHz帯
20260607_0021

21MHz帯
20260607_0022

24MHz帯
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28MHz帯
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HFV5の細かい調整までは追い込めてませんが、
バランの交換前後でさほど特性は変わっていない印象です。

 

4-12. バランの温度上昇の検証

HFV5のバラン BU-55 の発熱が個人的な一番の懸念事項であり、
それを解消すべく今回バランの自作をすることになりました。
今回、適切な温度測定環境を用意できていないので、温度上昇の実測まではできていません。

温度上昇も考慮して設計を行ったにも関わらず、その結果を検証できなかったことが、
今回のバラン製作のなかで一番残念だったことです。

設計上は多少の余裕を見込んでいますが、
今後、温度測定環境が整った際には、FT8やRTTYなどの連続送信条件で実測を行い、
設計結果との比較を行いたいと思います。

当面はこの構成で運用し、問題の有無を観察していきたいと思います。

 

 


■5. バランの設計


今回は単に「動けばよい」という製作ではなく、
100W連続運用時のコア損失や銅損まで含めて検討したうえで設計を行いました。
設計にあたっては、「改訂新版 定本 トロイダル・コア活用百科」第12章(12.1項~12.11項)
を主な参考資料としています。

 

5-1. バランのケース選定

HFV5の給電点にバランを設置する場合、
エレメント固定具とUボルトの間に収める必要があります。
そのため、ケースの幅は最大50mm程度に制限されます。

また、M型コネクタのレセプタクルを取り付けるためには、
高さ40mm程度が必要です。

さらに、内部スペースを考慮すると、
長さは60mm以上あることが望ましいと考えました。

これらの条件を満たし、比較的入手しやすいプラスチックケースを探したところ、
タカチのTW5-4-7B(幅50mm×高さ40mm×長さ70mm)が適していました。
そこで今回は、このTW5-4-7Bを採用しました。
https://www.takachi-el.co.jp/assets/attachments/images/TW5-4-7B.pdf

 

5-2. トロイダルコアの選定

5-2-1. トロイダルコアのサイズ

TW5-4-7Bにバランを収納するため、
トロイダルコアのサイズはFT-114以下に制約されます。
また、100W運用を想定していることから、サイズはFT-114を選択しました。

コア材については、18MHz帯~28MHz帯専用とするため、
高周波領域での損失が比較的少ない #61材を採用しました。
#61材は透磁率こそ低いものの、この周波数帯では良好な特性が期待できます。

以上より、トロイダルコアには FT-114-#61 を使用することにしました

 

5-2-2. トロイダルコアの許容損失

コア損失とコアの温度上昇には、次のような経験式(実験的に得られた近似式)が知られています。

$$\Delta T=\left(\frac{P_d}{S}\right)^{0.8333}$$        $\Delta T$ : 温度上昇 $[^\circ C]$
        $P_d$ : 損失電力 $[mW]$
        $S$ : コアの表面積 $[cm^{2}]$

この式は、「改訂新版 定本 トロイダル・コア活用百科」にも掲載されており、
またWeb上でも複数のフェライトコアメーカーの資料で見かけます。

この式を変形すると、$$P_d=S\times \Delta T^{1.2}$$となります。

温度上昇の許容値を30℃と仮定して許容損失を計算すると、下表のようになります。

コア 外径 $[cm]$ 内径 $[cm]$ 高さ $[cm]$ 表面積 $[cm^2]$ 温度上昇 [℃] 許容損失 $[W]$
FT-114サイズ 1枚 2.9 1.9 0.75 18.85 30 1.12
FT-114サイズ 2枚重ね 2.9 1.9 1.5 30.16 30 1.79

設計を検討しているなかで、許容損失 $1.12\ [W]$ では余裕が不足していることが判明しました。
そのため、FT-114サイズを2枚重ねで使用し、許容損失を $1.79\ [W]$ としました。 

なお、許容温度上昇を30℃より大きく設定すれば、許容損失をさらに増やすことができます。
しかし、私自身の経験では、温度上昇30℃でも十分に発熱している状態と感じます。
そのため、安全率を考慮し、本設計では温度上昇30℃を上限としました。

 

5-2-3. トロイダルコアのAL値

今回はFT-114-#61を2枚重ねで使用するため、
AL値は下表のとおり $160\ [nH/N^{2}]$ となります。

トロイダルコア AL値 $[nH/N^{2}]$
FT-114-#61 1枚 80
FT-114-#61 2枚重ね 160

一般に、同一のトロイダルコアを密着させて重ねた場合、
AL値はほぼ枚数に比例して増加します。
そのため、FT-114-#61を2枚重ねにした場合のAL値は、
1枚時の約2倍となる $160\ [nH/N^{2}]$ として扱うことができます。

 

5-3. 巻き数の検討

「改訂新版 定本 トロイダル・コア活用百科」によると、
強制バランのリアクタンス成分は、伝送系インピーダンス(50Ω)の5倍以上、
すなわち250Ω以上確保することが推奨されています。
今回は余裕を持たせるため、目標リアクタンスを50Ωの6倍である300Ωとしました。

最も周波数の低い18MHz帯において、この目標値を満足する巻き数を検討した結果、
巻き数は 5回 としました。
このときのインダクタンスは、$$L=AL\times N^{2}=160\times5^{2}=4000\ [nH]=4.00\ [\mu H]$$となります。

各周波数帯におけるリアクタンスを下表に示します。
なお、リアクタンスは下式で求められます。$$X_L=2\pi\times f \times L$$

周波数 [MHz] 目標リアクタンス [Ω] 巻き数 [回] インダクタンス [μH] リアクタンス [Ω]
18.1 300 5 4.00 454.90
21.1 300 5 4.00 530.30
24.9 300 5 4.00 625.81
28.1 300 5 4.00 706.23

いずれの周波数帯においても、リアクタンスは目標値の300Ωを大きく上回っており、
設計上十分な余裕があることが分かります。

 

5-4. 鉄損 (コア損)

5-4-1. #61材コアの複素透磁率

鉄損(コア損)を計算するためには、損失係数 $\tan{\delta}$ が必要です。
損失係数は、複素透磁率の実数成分 $\mu'$ と虚数成分 $\mu''$ を用いて、$$\tan{\delta}=\frac{\mu''}{\mu'}$$で求められます。#61材の複素透磁率データは、Fair-Rite社が公開している資料から入手できます。
https://fair-rite.com/61-material-data-sheet/

各使用周波数帯に近い周波数における複素透磁率 $\mu'$、$\mu''$ および損失係数 $\tan\delta$ を下表に示します。

周波数 [MHz] $\mu'$ $\mu''$ $\tan{\delta}$
18.00 143.43 7.75 0.054046676
20.80 151.80 15.32 0.100900947
25.20 161.01 38.28 0.237735965
28.10 158.30 57.41 0.362657943

 

5-4-2. 鉄損 (コア損) の確認

鉄損(コア損)の計算には、「改訂新版 定本 トロイダル・コア活用百科」に記載されている近似式を用いました。 $$\frac{P_{LOSS}}{P_{IN}}=\frac{\tan{\delta}}{\tan^{2}{\delta}+1}\cdot\frac{Z_{0}}{X}$$ここで、 
        $P_{LOSS}$:コア損失
        $P_{IN}$:入力電力
        $Z_0$:伝送系インピーダンス(50Ω)
        $X$:バランのリアクタンス
です。

式を変形すると、以下のようになります。$$P_{LOSS}=\frac{\tan{\delta}}{\tan^{2}{\delta}+1}\cdot\frac{Z_{0}}{X}\cdot P_{IN}$$入力電力を100Wとした場合の計算結果を下表に示します。
なお、使用周波数と完全に一致する複素透磁率データが存在しないため、
5-4-1節のデータを近似値として使用しました。

周波数 [MHz] 100W入力時損失 $P_{LOSS}\ [W]$
18.1 0.148222629
21.1 0.23622792
24.9 0.457169059
28.1 0.587071336

最も条件の厳しい28MHz帯においても、この近似による計算結果は約0.587Wでした。
一方、5-2節で求めたFT-114-#61 2枚重ねの許容損失は1.79Wであるため、$$0.587\ [W] < 1.79\ [W]$$と許容損失に対して、鉄損としては十分な余裕があることが確認できました。

実際の鉄損は巻線状態や磁束密度によって変化するため、
最終的には温度上昇の実測で確認する必要があります。

 

5-5. 巻き線の選定

巻き線材料としては、2.5Dタイプの同軸ケーブルと被覆銅線の両方を検討しました。

しかし、5-1節で選定したケース TW5-4-7B に収納することを考えると、
内部スペースに余裕がなく、2.5Dタイプの同軸ケーブルを使用するのは困難と判断しました。
そのため、巻き線材料には被覆銅線を採用しました。

また、導体径が細すぎると高周波抵抗が増加し、太すぎると巻線作業が難しくなります。
そこで、銅損と作業性のバランスを考慮し、導体径1.2mmの第1種ポリエステル被覆銅線
(φ1.2mm 1-PEW)を採用しました

なお、φ1.2mm 1-PEWの仕様は下記のとおりです。

導体直径 [mm] 線種 最小被覆厚 [mm] 最大外径 [mm] ※最大被覆厚 [mm] ※平均被覆厚 [mm]
1.2 1種 0.026 1.304 0.052 0.039

※導体直径、最大被覆厚、最小被覆厚から計算した値

 

5-6. 巻き線の特性インピーダンス確認

強制バランでは、巻き線自体が伝送線路として機能します。
そのため、巻き線の特性インピーダンスが50Ω系に適しているか確認しておきます。

平行2線の特性インピーダンスは、次式で求められます。$$Z_{0}=\frac{120}{\sqrt{\varepsilon}}\cdot\log_{e}{\frac{2D}{d}}$$ここで、 
        $Z_0$:特性インピーダンス [Ω]
        $\varepsilon$:2線間の媒質の比誘電率。ここではポリエステル被覆の比誘電率を用いる
        $D$:2線間の距離 [m]
        $d$:導体の直径 [m]

今回使用したφ1.2mm 1-PEWを平行に密着させた場合、電線仕様から各寸法は次のようになります。
        $D$=導体の半径×2+被覆厚×2=導体の直径+被覆厚×2=$1.2\times10^{-3}+0.039\times10^{-3}\times2=1.278\times10^{-3}\ [m]$
        $d=1.2\times10^{-3}\ [m]$

ポリエステル被覆の比誘電率は3.0~3.5程度とされているため、ここでは $\varepsilon=3.2$と仮定しました。

これらの値を上記の式に当てはめると、$$Z_{0}=\frac{120}{\sqrt{3.2}}\cdot\log_{e}{\frac{2\times1.278\times10^{-3}}{1.2\times10^{-3}}}\approx51\ [\Omega]$$となり、50Ω系伝送線路として十分実用的な値であることが分かります。

以前、
「ポリエステル被覆電線やポリウレタン被覆電線を平行密着させると、特性インピーダンスが50Ωに近くなる」
という内容の記事を書きました。
参考記事:バラン用巻線の特性インピーダンスを測定

当時は実測結果からそのような傾向を確認していましたが、
今回の簡易計算により、それが偶然ではなく理論的にも妥当であることを確認できました。

以上より、平行密着させたポリエステル被覆電線は、
50Ω系の伝送線路として十分使用可能であると判断しました。

 

5-7. 銅損の確認

5-4節ではコア損失について確認しました。
一方、28MHz帯では巻き線による損失(銅損)も無視できません。
そのため、巻き線の高周波抵抗を計算し、銅損を確認します。

高周波電流が導体に流れる場合、電流は導体内部に一様に流れず、
導体表面付近に集中します。この現象を表皮効果と呼びます。

さらに、本バランでは平行3線を密着させて使用しているため、
近接効果による抵抗増加も考慮する必要があります。

FT-114-#61を2枚重ねとし、トリファイラで5回巻きした場合の巻き線長は、実測で約25cmでした。
巻き線長は、ビニールひもをコアに緩く5回巻き付け、おおよその見当を付けました。

以下、まず表皮効果による高周波抵抗を求め、続いて近接効果を考慮した銅損を評価します。

表皮効果を考慮した抵抗は、以下の式で求められます。$$R' [\Omega]=\rho\times\frac{l}{\pi d\times\delta}$$ここで、 
        $\rho$:導体の抵抗率 [$\Omega\cdot m$]
        $d$:導体の直径 [$m$]
        $\delta$:表皮深さ [$m$]

また、表皮深さ $\delta$ は、$$\delta=\sqrt{\frac{\rho}{\mu\pi f}}$$        $\mu$:導体の透磁率 [$H/m$]
        $f$:周波数 [$Hz$]
とされているので、

        $l=0.5 [m]$ :信号経路往復 $25\ [cm]\times 2$ の長さ
        $\rho=1.72\times 10^{-8} [\Omega\cdot m$] :銅の抵抗率
        $d=1.2\times 10^{-3}\ [m]$ :線材の直径
        $\mu=4\pi\times 10^{-7}\ [H/m]$ :銅は磁性体ではないので、空気の透磁率で代用
        $f=28\times 10^{6}\ [Hz]$ :一番厳しい28MHz帯の周波数
を代入すると、$$R'=0.185\ [\Omega]$$となります。

一方で、銅線同士が近づくことによる近接効果の係数については、文献によって評価方法が異なります。
実際の銅損は、巻線配置や電流分布によって変化します。本設計では安全側の設計として近接効果の係数 $k_p$ を$$k_p=\sqrt{\frac{a}{2t}}$$        $a$:導体の半径 [$m$]
        $t$:導体の被覆厚 [$m$]
で算出した値を用いることを採用しました。

ここで、
        $a=0.6\times 10^{-3}\ [m]$ :線材の半径
        $t=0.039\times 10^{-3}\ [m]$ :1PEWの平均被覆厚
を代入すると、$$k_p=2.773$$となります。

以上の結果より、表皮効果、近接効果を考慮した信号経路往復の抵抗値は、$$R=R'\times k_p=0.185\times 2.773=0.51\ [\Omega]$$となります。

50Ωの負荷に100Wを出力したときに流れる電流は、$$I=\sqrt{\frac{P}{R_{L}}}=\sqrt{\frac{100}{50}}=\sqrt{2}\approx 1.41\ [A]$$        $R_{L}$:負荷抵抗 [$\Omega$]

です。

$0.51\ [\Omega]$の抵抗に$1.41\ [A]$の電流を流したときの消費電力は、$$0.51\times 1.41^{2}=1.02\ [W]$$となります。
すなわち、上記の前提条件で求められた銅損は、$1.02\ [W]$ということになります。

5-8. 全損失の確認

コア損はコア内部発熱、銅損は巻線発熱であり、熱の発生位置が異なるので、
本来は全損失の計算は、熱抵抗ネットワークとして扱うべきです。

今回は簡易的に全損失=鉄損+銅損として扱うこととしました。

5-4-2、5-7節で求められた鉄損、銅損から、全損失は、$$0.587+1.02=1.61\ [W]$$となります。

安全側の近似に基づく簡易計算では、全損失は約1.61Wとなり、
FT-114-#61を2枚重ねとした場合の許容損失1.79Wを下回る結果となりました。
ただし、コア損および銅損はいずれも近似計算によるものであり、
実際の発熱については温度上昇の実測によって確認する必要があると考えています。

 

5-9. 設計結果まとめ

項目 結果 備考
コア FT-114-#61 ×2 コア許容損失:1.79W
巻き数 5回  
リアクタンス 455〜706Ω 18MHz〜28MHz
最大鉄損 (コア損) 0.587W 100W入力時, 28MHz
(簡易計算値)
最大銅損 1.02W
推定全損失 1.61W
VSWR 1.1以下 実測値

 

 


■6. 最後に


今回のバラン製作では、HFV5の給電部へ取り付けることを前提としていたため、
ケース寸法に大きな制約がありました。

そのため、コアサイズや巻線構成の選定には様々な制約があり、
設計上はやや無理をした部分もあります。

もし制約がなければ、FT-140サイズ以上のコアを使用したり、
巻線に同軸ケーブルを用いたりすることで、
損失や温度上昇に対してさらに余裕を持たせることもできたでしょう。

バランは一見すると単純な部品ですが、
その設計には磁性材料、高周波伝送線路、表皮効果、近接効果など、
様々な要素が関わっています。

たかがバラン、されどバラン。

今回改めて、その奥深さを実感しました。

結果として、HFV5の18MHz帯~28MHz帯専用の100W級強制バランとしては、
設計上も実測上も概ね満足できるものになったと考えています。

もちろん、今回の設計はあくまで近似計算に基づくものであり、
実際の温度上昇については今後の実測による検証が必要です。

実際には、最初からスムーズに設計できたわけではありません。
様々な資料を調べながら試行錯誤を重ね、
設計計算用のExcelシートを作成して検討を進めました。

20260607_0025

これまで、ここまで踏み込んでバランの設計を検討する機会はほとんどありませんでしたが、
非常に良い勉強になりました。

今後は実運用における温度上昇の測定も行い、
今回の設計結果との比較・検証を進めていきたいと考えています。

ここまで長文をお読みいただき、ありがとうございました。
本記事が、HF帯用バランの自作や設計を検討されている方の参考になれば幸いです。

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無線(アンテナ)」カテゴリの記事

コメント

 素晴らしい記事をありがとうございます。こういうのを拝見しますと、果たしてメーカ製のものはどういう想定・設定で設計製作されているのかなという疑問が湧いてきますね。ケチを付けているわけではなく、あれでどうやってあんな広帯域等々を満足できているのかな、など興味が尽きないという意味で。
 ところで素人丸出しでスミマセン。3本の巻き線をよじらなかったのには何か意味があるのでしょうか。よじればカプトンテープを巻く必要もなさそうですしインピーダンスも安定するように思うんですが、単に1.2mmでは固くてよじりにくいという理由かなと想像しています。

ji3kdhさん、こんばんは

早速ご覧いただきまして、ありがとうございます。
「国内メーカー製だから大丈夫」と思っていましたが、先日の記事でも書きましたが、メーカー製バランを開腹したところ、これで500W大丈夫なのかと疑問に思ったのが、今回製作したきっかけになりました。

3本よじらなかったのは、記事の5-6節でも書きましたが、信号が通るメインパスの特性インピーダンスを50Ωに近づけ、バランでのVSWRを悪化させないためです。
2017年2月24日の記事
https://ji3csh.air-nifty.com/blog/2017/02/post-ee66.html
で考察しましたが、3本よじってしまうと、特性インピーダンスが30Ω以下になり、HFハイバンド以上ではバラン自体のVSWRに影響を及ぼしてしまいます。補正のためコンデンサを追加することもあるようですが、本質的な改善ではないと考えています。

バラン製作のキモはそこだと私は確信して記事を書いたつもりですが、わかりにくくてすみません。

 すみません、その過去記事を見落としていまして今拝見しました。いや面白いですね、なるほど了解しました。
 あと同じコメントを重複投稿してしまいましたのもスミマセンでした。

ji3kdh さん

エナメル線ぐらい被覆が薄いと、だいたいこんな感じになると思います。
被覆が厚いと、かえって3本よじった方が良い結果になることもありそうです。
そこは、ある程度計算で見積もれそうです。

重複投稿は、後で整理しておきますね。

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