CMOSキーヤー Ver.2 の製作 (その2)
取りあえず基板は完成した CMOS キーヤーですが、
キーイングスピード調節のボリュームをどれくらいの抵抗値にするのが最適かが不明なので、
ちょっと調べてみました。
ちなみに、CMOS キーヤーの発振回路は下図のようになっており、
J1 の先に 1 MΩのボリュームを接続しています。
RC 発振回路の抵抗値としては、VR + 100 kΩ となります。
モールスのスピードは、リグ (TS-590S) 内蔵キーヤーの
キーイングスピード表示を参照にしました。
リグのキーヤーと CMOS キーヤーを同時に動かし、
同期の取れたとき (サイドトーンで唸りが無くなるとき) の
ボリュームの抵抗値を測っていきました。
結果は、以下のようになりました。
wpm | VR抵抗値 | 発振回路抵抗値 | ||||||
16 | 943 kΩ | 1043 kΩ | ||||||
18 | 833 kΩ | 933 kΩ | ||||||
20 | 746 kΩ | 846 kΩ | ||||||
22 | 659 kΩ | 759 kΩ | ||||||
24 | 600 kΩ | 700 kΩ | ||||||
26 | 538 kΩ | 638 kΩ | ||||||
28 | 498 kΩ | 598 kΩ | ||||||
30 | 463 kΩ | 563 kΩ | ||||||
32 | 416 kΩ | 516 kΩ | ||||||
34 | 384 kΩ | 484 kΩ | ||||||
36 | 367 kΩ | 467 kΩ | ||||||
38 | 339 kΩ | 439 kΩ |
キーイングスピードと発振回路の抵抗値をグラフにしてみると、
キーイングスピード (発振回路の発振周波数)は、抵抗の逆数に比例するはずです。
抵抗値を逆数にすると分かりづらいので、横軸のスピードの逆数にしてみると、
ほぼ直線関係が得られました。
この直線関係を用いて、欲しいキーイングスピード範囲から抵抗値を求めることができそうです。
ちなみに、20 wpm の短点の時間は、60 ms と言われているようです。
試しに、キーイング波形を見てみました。
ボリュームの抵抗値が 746 kΩ すなわち発振回路の抵抗値が 846 kΩ のときの、
連続短点のキーイング波形です。
確かに、ほぼ 60 ms になっています。
ネットを検索していると、この手の発振回路の発振周波数 f は、$$f=\frac{1}{2.2\times R\times C}$$との情報がよく出てきます。
20 wpm (= 60 ms = 16.666 Hz) のときの定数
$R=846 [k\Omega]$
$C=0.047 [\mu F]$
を当てはめてみると、$$f=\frac{1}{2.2\times (846\times 10^{3})\times (0.047\times10^{-6})}=11.431 [Hz]$$と計算が合いません。
係数 2.2 のところを 1.5 にしてやると、$$f=\frac{1}{1.5\times (846\times 10^{3})\times (0.047\times10^{-6})}=16.766 [Hz]$$と現物に近い値になります。
なぜなのでしょうか。以下推測してみます。
(間違っていたら、どなたか突っ込んでください)
この手の発振回路は、抵抗 R とコンデンサ C の時定数で決まる充放電を
繰り返すことによって動作しています。
仮に CMOS ロジックの入力閾値を電源電圧 Vcc の 1/2 (Vcc = 5 V の場合は 2.5 V) だとすると、
コンデンサの充放電動作は、
3/2 Vcc (= Vcc + 1/2 Vcc) → 1/2 Vcc (閾値) の放電 と
-1/2 Vcc (= 0 V - 1/2 Vcc) → 1/2 Vcc (閾値) の充電 を
繰り返すことになると考えられます。
すなわち放電は初期電圧の 1/3 で閾値に達し充電に切り替わり、
充電は到達電圧の 2/3 (初期電圧基準でみると 1/3 の電圧)
で放電にが切り替わる動作を繰り返しています。
RC 回路のコンデンサ電圧 $V$ と時間 $t$ との関係は、初期電圧を$V_0$とすると、
放電は$$V=V_0\times e^{-\frac{t}{RC}}$$充電は $$V=V_0\times (1- e^{-\frac{t}{RC}})$$になるかと思います。
ここで、$$V=\frac{1}{3}\times V_0$$を代入すると、$$e^{-\frac{t}{RC}}=\frac{1}{3}$$ $$-\frac{t}{RC}=\log_e{\frac{1}{3}}=-1.099$$ $$t=1.099\times R\times C$$
これは、半周期の時間なので、発振周波数 $f$ は、$$f=\frac{1}{2\times t}=\frac {1}{2\times 1.099\times R\times C}=\frac {1}{2.198\times R\times C}\doteqdot\frac {1}{2.2\times R\times C}$$となり、係数 2.2 はこれに由来しているものと思われます。
しかし、実際にはコンデンサの電圧は、3/2 Vcc 〜 -1/2 Vcc まで振れません。
なぜならば、CMOS ロジック IC の入出力端子には大抵 ESD (静電気破壊) 保護用のダイオードが内蔵されており、
おおよそ Vcc + 0.6 V、GND - 0.6 V でクリップされてしまいます。
電源電圧が 5 V の場合は、だいたい 5.6V 〜 -0.6 V の間で振れることになります。
実際にコンデンサの波形を見てみても、以下のとおりVcc + 0.5 V、-0.5 V でクリップされていることが分かります。
(電池の電圧の関係で Vcc = 約 5.5 V になっている)
閾値も厳密には、ぴったり 1/2 Vcc ではありません。
であれば、先ほど計算した $t$ はどうなるかというと、$$初期電圧の\frac{2.5}{5.6}$$になるまでの時間になるので、$$-\frac{t}{RC}=\log_e{\frac{2.5}{5.6}}=-0.806$$ $$t=0.806\times R\times C$$ $$f=\frac{1}{2\times t}=\frac {1}{2\times 0.806\times R\times C}=\frac {1}{1.612\times R\times C}$$となり、実験結果の 1.5 に近い値が得られました。
しかし、Vcc が異なる場合 (例えば、Vcc = 9 V など) は、この係数はまた変わってくるはずです。
備忘録を残す良い機会になりました。
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