5V単電源 ウィーンブリッジ発振器の試作
5V単電源 ウィーンブリッジ発振回路の検討から、少し時間が経ってしまいました。
参考:5V単電源 ウィーンブリッジ発振回路の検討
暑さも和らいできたせいか、ようやく電子工作のやる気が出てきましたので、
実際に回路を組んで動かしてみました。
■回路■
前回シミュレーションを行った回路に準じますが、発振の Gain を決める抵抗は可変できるように、
R3 (4.3 kΩ) と VR1 (1 kΩ) に変更しています。
また、発振周波数を決めるコンデンサ C4、C6 は、0.01 µF から 0.022 µF に変更しています。
さらに、後段にヘッドホンドライブ回路 (反転増幅回路) を追加しており、
出力振幅を可変できるように、帰還抵抗を VR2 (5 kΩ) としています。
■使用部品■
IC1 のオペアンプは、アナデバ製の AD8532AR を使いました。
低電圧の rail to rail 入出力であり、かつ出力電流が ±250 mAと大きく、
データシートにヘッドホンアンプ応用例が記載されているオペアンプです。
GB 積は 3 MHz とあまり高くないですが、扱う周波数が 1 kHz 程度と低く、
Gain も高くて 3 倍程度なので、まあ大丈夫でしょう。
Q1 の FET は手持ちの 2SK208-GR を使いました。
低周波用 FET の定番 2SK30 の表面実装パッケージ品だそうです。
R6 の 1 MΩ 以外は、いちおう金属皮膜抵抗を使いました。
発振周波数を決める C4 と C6 は、フィルムコンデンサを使いました。
■基板■
今回は試作なので、ユニバーサル基板で組んでも良かったのですが、
オペアンプと FET が表面実装品なので、プリント基板を作りました。
ジャンパも使わず、片面のパターンで収まりました。
■組み立て■
プリント基板に穴を開けるのが面倒くさいので、
抵抗やコンデンサもパターン面にはんだ付けしました。
今回は試作ということもあり、部品の再利用も考慮して、
抵抗やコンデンサのリード (足) は長めにカットしています。
見た目にも、特性的にもよろしくないのでしょうが、
あくまでも試作ということで割り切っています。
※出力の終端抵抗は後から追加したので、基板には実装されていません。
■動作確認■
回路に電圧 (約 5.5 V) 印加すると、すぐに発振波形が確認できました。
割と綺麗な正弦波が出力されており、AGC がちゃんと効いています。
発振周波数は約 755 Hz となっています。
設計値は、$$f=\frac{1}{2\pi CR}=\frac{1}{2\pi\times 0.022\mu F \times 10k\Omega}\doteqdot 723 Hz$$
なので、誤差は 4.4 % ありますが、部品 (おそらくコンデンサが主) のバラツキ範囲内なのでしょう。
VR1 を回すと、発振波形の振幅が変化します。
VR1 を回しきって 0 Ωにしても、振幅は大きくなりますが、発振波形が歪むことはありませんでした。
発振回路の出力 (IC1 の pin 1) で、振幅が 2 Vpp となるように、VR1を調整してみました。
このとき、VR1 の抵抗値は 約 143 Ωでした。
ピーク検波後の波形も見てみました。
半波整流なので、若干サグが出ています。
写真ではカーソルを表示させていませんが、
発振波形のボトムとピーク検波後の電圧差、すなわちピーク検波用ダイオード D1 の
順方向電圧 $V_F$ は、約 0.23 V でした。
ピーク検波電圧と FET Q1 のソース電圧との差、すなわち Q1 の$V_{GS}$ は、約 0.78 V でした。
波形の上が Q1 のソース電圧、下がピーク検波電圧です。
$2\times (V_{GS}+V_F)=2\times (0.78 V+0.23 V)=2.02 V$ となり、
(当然でしょうが) 出力振幅を 2 Vpp に調整した結果と合致しています。
■ちょっと考察■
FET Q1 のドレイン ー ソース間の電圧 $V_{DS}$ を見てみました。
上の波形は発振回路出力 (1 V/div)、下は Q1 の $V_{DS}$ (100 mV/div) です。
$V_{DS}$ 波形の 0 V は中心線のところなので、-20 mV 〜 +10 mVぐらいの範囲で振れています。
ここで、2SK208 のデータシートを見てみます。
絶対最大定格に $V_{DS}$ の項はありませんので、$V_{DS}$ がマイナスに振っていても特に問題なさそうです。
下図は、2SK208 データシートから $I_D - V_{DS}$ のグラフを抜粋したものです。
2SK208 のドレイン ー ソース間抵抗は、この特性曲線の傾きになるので、
ドレイン ー ソース間の電圧が- 20 mV 〜 +10 mV (ほぼ 0 V) で動作しているということは、
ゲート ー ソース間電圧 $V_{GS}$ の変化に対し、特性曲線の傾き すなわちドレイン ー ソース間抵抗の変化が大きいので、
AGC の制御としては好ましい動作点で動いてくれているということが分かります。
$V_{GS}$ が 0.78 V でしたので、特性曲線の傾きから大凡のドレイン ー ソース間抵抗 $R_{DS}$ を求めてみると、$$R_{DS}=\frac{2.25 V}{8 mA}\doteqdot 281 \Omega$$となります。
Q1 のソースに付いているデカップリングコンデンサ C2 は 1 µF なので、
発振周波数 755 Hz におけるインピーダンスは、$$\frac{1}{2\pi\times 755 Hz\times 1 \mu F}\doteqdot 211 \Omega$$です。
R1 と R2 (ともに 1 kΩ) が並列に付きますので、合成インピーダンスは約 194 Ω になります。
よって、発振回路の Gain を決める抵抗は、$$194 \Omega + 281 \Omega (R_{DS}) +4.3 k\Omega (R3) + 143 \Omega (VR1) = 4.918 k\Omega$$で、Gain は 3 倍強となり、発振条件に近い値になります。
計算やグラフからの読み取り誤差を考えると、まあまあ妥当な数字ではないでしょうか。
C2 は今回 1 µF にしましたが、発振周波数を考えるともう少し大きな値の方が良かったかも知れません。
サイドトーンモニタ用の発振器として考えていますので、まあ実用になりそうな感じです。
ヘッドホンドライブ回路については今回記載していませんが、
いちおう動作することは確認済みです。
ヘッドホンを繋いで、最適なレベルに合わせることは、次回の追試にしたいと考えています。
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