シュペルトップバランについては、もう9年ほど前に記事を書き、
OMからもいろいろと教えていただきました。
シュペルトップバランを作りたいが...
シュペルトップバランの原理が理解できず
シュペルトップバランの原理をようやく理解
そのときに得た結論が、シュペルトップバランの波長短縮率については、
一般的によく言われている 0.67 ではなく 0.5 程度だということです。
ただし、前提条件として、
・シュペルトップバランは、同軸ケーブルのシース (保護被覆) に編組銅線を被せた構造で構成する
・同軸ケーブルのシース (塩化ビニル) の誘電率は 4 と仮定する
しかし、波長短縮率が 0.5 というのは、上記の前提条件、特にシースの誘電率が 4 と仮定した場合
に成り立つことであり、実際がどうなのかを調べることはしてきませんでした。
先日 Nano VNA-H4 を手に入れましたので、この波長短縮率がどうなっているのかを
ド素人の大雑把な測定ですが、見てみました。
準備したのは、お手頃な 50 MHz 用のシュペルトップバランです。

ちゃんと測定しようとするならば、測定ポイントの部分は何か治具を設けるべきですし、
同軸の両端もリグとアンテナを接続することを模擬して、50 Ω の抵抗で終端すべきだと思います。
今回はざっくり見るだけなので、シュペルトップバランの部分に関しては終端抵抗が無くてもおそらく影響は無いですし、
Nano VNA-H4 に同軸ケーブル経由で接続した変換コネクタに測定ポイントをビニールテープで仮固定する
という横着な仕様で測定しました。
なお、使用した同軸ケーブルは、関西通信電線製の 5D-2V です。
5D-2V のシースに被せる編組銅線はシースに極力密着させ、ビニルテープをキツくに巻きました。
5D-2V のシースに被せる編組銅線と 5D-2V の外部導体との接続部分は、しっかり密着させて、細い銅線でキツく縛りました。
この二点は、波長短縮率を測定する上で重要なことだと思います。
まずは、一般的に言われている波長短縮率 0.67、すなわち 50 MHz 用で 1 m のシュペルトップバランから測定しました。
測定するのは、アンテナに接続する側の
5D-2V のシースに被せる編組銅線と 5D-2V の外部導体 間のインピーダンスです。
周波数範囲は、30 MHz 〜 60 MHz としてみました。

ちょっと見にくいかもしれませんが、インピーダンスが最大となる周波数は 42.917 MHz でした。
この結果から波長短縮率を計算してみます。
42.917 MHz の 1/4 波長は、$$\frac{\lambda}{4} = \frac{300}{42.197}\times{\frac{1}{4}} = 1.748 [m]$$よって波長短縮率 $\delta$ は、$$\delta = \frac{1}{1.748} = 0.572$$となりました。
ちなみに、この波長短縮率からシースの誘電率を逆算すると、$$\varepsilon_r = \frac{1}{0.572^{2}} = 3.06$$
これらの結果は、とある OM が実験された結果と一致し、あながち間違いではないと思われます。
http://www.takatoki.justhpbs.jp/garakuta/syuperu/syupe.html
では、波長短縮率を 0.572 として 50.2 MHz 用のシュペルトップバランを作ってみたらどうでしょうか。
シュペルトップバランの長さを計算すると、$$l = \frac{300}{50.2}\times{\frac{1}{4}}\times{0.572} = 0.855 [m]$$
シュペルトップバランを$0.855 [m]$長に切り詰めました。
このときの特性は、

ちょうど 50 MHz でインピーダンスが最大です。
波長短縮率を逆算すると、 $\delta = 0.57$ となります。
まあ、誤差の範囲でしょう。
マーカーは、50 MHz、52 MHz、54 MHz に設定しています。
インピーダンス最大点 50 MHz でのインピーダンスは 267 Ωです。
トロイダル・コア活用百科によると、同相電流の阻止インピーダンスを目的としたフロートバランは
特性インピーダンスの約 60 倍、すなわち 50 Ω 系だと約 3 kΩ のインピーダンスが必要とされています。
また、コモンモードチョークのインピーダンスも、3 kΩ 以上を目標としています。
このことを考えると、測定がいい加減な点を差し引いても、267 Ω という値は
同相電流の阻止インピーダンスとしてはかなり低いと思います。
当然ながら、周波数依存性も有ります。
これならば、トロイダルコアにバイファイラ巻きしたものや、パッチンコアを複数個噛ました
フロートバランの方が、より高い阻止インピーダンスが得られるのではないかと感じます。
以上の結果は、関西通信電線製の 5D-2V を用いた 50 MHz 用のシュペルトップバランという条件下です。
シースの誘電率に周波数依存性があるならば、周波数が変われば波長短縮率は変わります。
また、同じ 5D-2V でもメーカーが異なると違った結果が得られることも考えられます。
さらに、同軸ケーブルの種類、例えば 5D-FB だとシースの材質も異なりますので、当然波長短縮率も変わってきます。
シュペルトップバランの波長短縮率が 0.5 だとか 0.57 だという、
数値だけが一人歩きすることを危惧します。
いずれにしても、
実際に作製した後に実測して調整することが必要かと思います。
シュペルトップバランはお手軽なバランとしてよく紹介されていますが、
キチンと作ってキチンと調整する必要があり、
決してお手軽ではないように感じるようになりました。
お手軽に作ったシュペルトップバランは、気休めにもなっていないように思います。
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