誤解があってはいけませんので、最初にお断りしておきます。
下記記事は、強制バラン単体の VSWR を 1.0 にすることが目的であり、
アンテナの VSWR を改善しようというものでは有りません。
理想の 1 : 1 強制バラン (50 Ω 不平衡 ⇔ 50 Ω 平衡 の変換) を追求しようというものです。
最近また50MHz用の強制バランをいろいろ試してみましたが、
ようやくまともな物を作ることができました。
◆◆フェライトコアについて◆◆
改訂新版[定本]トロイダル・コア活用百科に、50MHz用のバランには
フェライトコアの損失係数tanδが低い#67材が適していると書かれています。
予備でもう一つFT-114-67のフェライトコアを持っていましたので、
これを使うことにしました。
FT-140-67が手に入るのであれば、こちらの方がベターだと思います。
◆◆フェライトコアに巻く線について◆◆
フェライトコアにトリファイラ巻きする線についての考察は、
バラン用巻線の特性インピーダンスを測定と
バラン用巻線の特性インピーダンス測定結果から考察 で行っています。
結論としては、ポリウレタン銅線(UEW)またはポリエステル銅線(PEW)を撚らずに
平行に並べた3線にすると伝送線路としての特性インピーダンスが50Ωに近くなるので、
良好な結果が得られるということです。
ポイントは、線同士を軽く密着させた状態を保つということです。
線間に隙間ができると、特性インピーダンスが上がってしまいます。 色々考えましたが、1mm ポリウレタン銅線を平行に並べた3線をマスキングテープでグルグル巻きにして、
線同士を密着させた状態を維持させることにしました。

平行3線の長さは、少し長めで35cmのものを準備しました。
平行3線へテープを巻く前に、ポリウレタン銅線を直線にする必要があります。
万力で銅線の片側を鋏み、軽く手で扱いた後にペンチで強く引っ張ってやります。
太い線ではなかなか力が要りますが、1mmの銅線ぐらいでしたら割ときれいな「直線」ができます。
これを曲げないように注意して3本を綺麗に並べ、ピタッと密着させながらテープを巻いていきます。
本来、グルグル巻きにするテープは薄くて柔軟性があり、かつ丈夫で耐湿性のあるものがベターです。
吸湿すると、水分で比誘電率が変わり、特性インピーダンスに影響を与えてしまう可能性があるからです。
マスキングテープは紙製なのであまりよろしくないですが、良いテープが手に入らなかったので、
仕方なく我慢することにしました。
なお、巻き線に同軸ケーブルを使った強制バランは、過去の記事
50MHz用強制バランの製作 にて記載しています。
◆◆バランの作製◆◆
マスキングテープをグルグル巻きにした平行3線を、FT-114-67へ捩れないよう丁寧に巻いていきます。

最初は改訂新版[定本]トロイダル・コア活用百科に書かれているとおり8回巻きで作ってみましたが、
50MHz専用であれば7回巻でも充分であろうと考え、後で一巻き解きました。
FT-114-67のAL値は25なので、
7回巻き:L=1.225μH ⇒ 50MHzでのリアクタンス=384.8Ω
8回巻き:L=1.600μH ⇒ 50MHzでのリアクタンス=502.7Ω
リアクタンスは、50Ωの5倍以上すなわち250Ω以上が必要。
巻線長は短い方が良い。
⇒巻数は7回でも充分という結論
強制バランのVSWRを良くするための重要なポイントは、
大きな差動信号が通るメインパス(図の①と③)を、平行3線のうち必ず隣り合う線として使用する ということです。

すなわち、①と③で形成される伝送線路の特性インピーダンスを50Ωに近づけることにより、
強制バランのVSWRを良くすることができます。
あと、不平衡端(同軸コネクタ側)の処理は、なるべく短い配線にする必要があります。
また平衡端(アンテナ側)で①と②を接続する箇所も、フェライトコアに巻き終わった位置から
近いところにした方が良いと思います。
残りの配線は、アンテナエレメントの一部として動作します。
◆◆バランの特性(VSWR)◆◆
仮組み立てした強制バランの出力端に、51Ωの金属被膜抵抗を接続し、アンテナアナライザで
VSWRを測定してみました。

VSWRはほぼ1.0でバッチリです。

アンテナアナライザで純抵抗値 R を見ると、巻線の特性インピーダンスの状態が大体予想できます。
Rが50Ωより大きく表示されていたら、巻線の特性インピーダンスが50Ωより大きくなっているはずで、
恐らく平行3線の線間に隙間ができているものと予想されます。
逆にRが50Ωより小さく表示されていたら、巻線の特性インピーダンスが50Ωより小さくなっているはずで、
撚り線ぽくなっているとか、線間に容量が付き過ぎているような状態になっていると予想されます。
(7〜8回巻きだと巻線長は30cm弱なので、短縮率を考えてもλ/4以上にはならず、
見かけのインピーダンスはひっくり返っていないはずです)
◆◆バランの特性(平衡度)◆◆
オシロスコープで、出力の波形振幅を確認してみました。
写真は、平衡側の+端およびー端の波形です。
オシロスコープのトリガーの関係で、同相になっているように見えますが、
ちゃんと+端とー端とで位相反転していることは確認済みです。


改訂新版[定本]トロイダル・コア活用百科 377ページの「バランの平衡度計 (1)」にある計算方法で、
$$\frac{123.0-120.2}{123.0+120.2}\times100=1.15\%$$
すなわち、アイソレーションは、
$$20\log\frac{123.0+120.2}{123.0-120.2}=38.8dB$$
これは、改訂新版[定本]トロイダル・コア活用百科 371ページの[図9.15]を参考にすると、
まずまずの結果ではないかと思います。
◆◆まとめ◆◆
作ったバランをケースに収め、早速50MHzの2エレVビームアンテナに接続しました。
VSWRも変化することなく、特に問題なく動作しています。

以前同軸ケーブル 2.5D2Vを巻いた強制バランを作りましたが、
それと特性的にはあまり変わらないのではないかと思います。
しかし、巻線に使った銅線を太くすることができますので、「銅損」による発熱が抑えられ、
耐電力の向上が図れたと思います。
一応、50MHz用強制バランはこれで完成ということで、一段落です。
HFハイバンド(21MHz以上程度)においても、強制バランの巻線を撚り線ではなく平行3線とすることは、
VSWR下げるために必要ではないかと思います。
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